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2006.08.02

「どうしてだ?」

 と私はたずねてみた。

「酒場での、毎晩のダンス。ビールにうまい鳥料理。どうして君らは、自分たちの心臓を、わざわざいじめるような真似をしている? 酒を飲んで踊るなんて、そんなの自殺行為じゃあないか」

 交渉係は目を丸くした。

「どうして?」

 本心で驚いている様子だ。私は彼の心臓が心配になった。

「だって、せっかく生きているんですよ。生きているときに、生きるたのしみを味わうのでなけりゃ、それは、生きていることにならないんじゃないですか?ぼくらはとても太っていて、心臓がすこぶる悪い。でもそれだけです。こうして生きているんです。食べられるなら、おいしく。踊れるうちは、足を高く。自殺だなんてとんでもない。生きるなら、生きるだけのたのしみをからだじゅうに受けて生きようと、ぼくたちは昔から、ただそう思って暮らしているだけなんですよ」

 

白の鳥と黒の鳥/いしいしんじ  書川書店

 

 

 

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